住宅の耐震基準と耐震等級をわかりやすく解説:旧耐震・新耐震の違いと耐震診断のポイント

日本では過去数十年の間に震度7クラスの大地震が複数回発生しており、今後も大規模地震のリスクが指摘されています。現在の耐震基準は、人命や財産を守るための最低限の基準であり、地震後の住み続けられる性能までは担保していません。そこで注目すべきが、住宅性能表示制度に基づく「耐震等級」です。本記事では、耐震基準と耐震等級の違い、旧耐震住宅のリスク、耐震診断の方法まで、住宅購入や建て替え・リフォームを考える方が知っておくべきポイントをやさしく整理しています。

住宅の耐震化基準とは?基本を理解する

耐震基準が定められた背景

住宅の耐震基準とは、建築基準法によって定められた、建物が地震に対して備えるべき最低限の性能基準のことです。日本で初めて耐震基準が制定されたのは1924年で、建築基準法の前身である市街地建築物法の大幅改正により盛り込まれました。

現行の建築基準法は1950年に制定され、その後1971年、1981年、2000年と大きな改正が繰り返されてきました。この歴史が示すように、日本の耐震基準は「生きた法律」とも呼ばれ、大きな地震が発生するたびに被害状況を検証し、より安全な基準へと進化を続けています。

大きな震災が発生すると、住宅にどのような被害があったのか、何が原因だったのかについての調査がおこなわれ、その結果を精査することで改正が繰り返されているのが実情です。つまり、私たちが現在目にする耐震基準は、過去の震災で犠牲になった方々の尊い命の上に築かれた、貴重な教訓の結晶といえるでしょう。

耐震基準の最も重要な役割は、国民の生命と健康、そして財産を守ることです。ただし、誤解してはいけないのは、建築基準法は、住宅そのものではなく、人命や財産の保護を主目的として定められた基準です。つまり、大地震が発生したときに即座に家が崩落・倒壊して命が奪われることがないようにするための基準であり、地震に遭っても壊れずにそのまま住み続けられることを保証するものではありません。

耐震基準の法的位置づけ

建築基準法で定められた耐震基準は、新たに建物を建てる際に必ず遵守しなければならない法的義務です。住宅を建てる際には確認申請が必要で、この申請時に耐震基準に合致しているかどうかがチェックされます。

ここで重要なポイントがあります。建築基準法の耐震基準の改正はさかのぼっては適用されていません。そのため、確認申請が出されたタイミングによって、異なる耐震基準の建物が存在しているのです。

つまり、建築時には合法だった建物が、後の基準改正によって「現行の基準を満たしていない」状態になることがあります。これは違法建築ではなく、あくまで「建築当時の基準では適法だった建物」ということになります。

このため、中古物件を購入するときには、確認申請が出された年月日は不明なことが多く、建物が竣工した年を目安に耐震基準を推測することになります。特に1981年以前に建てられた建物は、現行の基準と大きく異なる旧耐震基準で建築されている可能性が高いため、注意が必要です。

また、耐震基準はあくまで建築基準法における「最低限クリアすべき基準」であることも理解しておきましょう。より高い耐震性能を求める場合は、後述する「耐震等級」という任意の指標が用意されています。

日本の地震リスクと耐震化の重要性

日本は世界でも有数の地震大国です。国土面積は世界の0.25%に過ぎませんが、世界で発生するマグニチュード6以上の地震の約20%が日本周辺で発生しています。

ここ30年の間だけでも、阪神・淡路大震災、新潟県中越地震、東日本大震災、熊本地震、北海道胆振東部地震など、震度7を記録する地震に見舞われました。2024年1月の能登半島地震も記憶に新しいところです。

こうした状況の中、昭和56年以前に建築された建物は、建築基準法に定める耐震基準が強化される前の、いわゆる「旧耐震基準」によって建築され、耐震性が不十分なものが多く存在します。全国には約900万棟もの耐震性が不十分な建物があるとされており、これらの建物に住む人々の安全が懸念されています。

2024年の能登半島地震では、輪島市などで震度7を記録し、多くの建物が倒壊しました。この教訓を受けて、国土交通省では地域により耐震性能を割り引く「地震地域係数」の見直しが検討されています。今後、全国一律でより厳しい基準が適用される可能性もあるでしょう。

住宅の耐震化は、家族の命を守るだけでなく、地域の災害対応力や復旧の円滑化にも寄与します。倒壊した建物が道路を塞げば救助活動の妨げになりますし、火災の原因にもなります。一人ひとりが自宅の耐震性を把握し、必要に応じて耐震改修を行うことが、地域社会全体の安全につながるのです。

また、耐震性能は安全性だけではなく、資産価値にも影響します。築年数の経過した物件でも、耐震診断の結果によって新耐震基準を満たしていることが証明されれば、資産価値の維持や一部の税制優遇の対象になる場合があります。

耐震等級の仕組みと選び方

耐震等級とは

耐震等級とは、地震に対する建物の強さを示す指標で、「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」に基づいて評価されます。2000年に施行された住宅性能表示制度の中で定められており、建物の「倒壊しにくさ」「損傷しにくさ」を数字で表した等級です。

耐震基準と耐震等級の違いを簡単に説明すると、必ず満たさなければならない最低限の基準を定めたのが耐震基準で、さらに高いレベルの性能を評価する指標が耐震等級です。その背景には、過去の地震の経験を踏まえ、安心・安全な住まいを希望する声に応えて進化してきた歴史があります。

耐震基準と耐震等級の主な違い

  • 耐震基準:建築基準法で義務付けられた最低限の基準(法的義務)
  • 耐震等級:住宅性能表示制度に基づく任意の評価指標(取得は任意)

重要なポイントは、建築基準法の耐震基準はあくまでも「命や健康、財産」を守るための基準であり、地震後も建物に住み続けられることを保証するものではないという点です。一方、耐震等級は建物自体を守ることも視野に入れており、より高い等級を取得すれば、大地震の後も修繕して住み続けられる可能性が高まります。

耐震等級は1から3まであり、数字が大きいほど耐震性能が高いことを示します。また、「構造躯体の倒壊等防止」と「構造躯体の損傷防止」という2つの評価基準があり、それぞれ想定する地震の震度が異なります。

耐震等級1・2・3の違い

耐震等級は3段階に分かれており、それぞれ明確な基準が設けられています。以下で各等級の詳細を見ていきましょう。

耐震等級1

耐震等級1は、現行の建築基準法で定められた、建物に備わっているべき最低限の耐震性能を満たしていることを示すものです。具体的には以下の強度が想定されています。

  • 数百年に一度起こる大地震(震度6強~7程度)で倒壊・崩壊しない
  • 数十年に一度の頻度で発生する地震(震度5強程度)で損傷を受けない

新耐震基準が厳格に運用されるようになった2000年以降に建てられた住宅は、いずれも耐震等級1以上を満たしています。ただし、耐震等級1の建物は、大地震で倒壊は免れても建物のダメージが大きいため、その後大規模な修繕や住み替えが必要になるケースがあります。

耐震等級2

耐震等級2は、耐震等級1の1.25倍の耐震強度があることを示しています。つまり、耐震等級1で想定される地震の1.25倍の力がかかっても、倒壊・崩壊しない程度の強度となり、大地震にあっても損傷の軽減が期待できます。

  • 震度6強~7の地震にも耐えられる
  • その後も一部の補修を行えば生活できる可能性が高い
  • 長期優良住宅として認定される要件の一つ
  • 学校や病院など避難所指定される公共施設に求められる基準

耐震等級2は、公共施設や避難所に求められる等級であることから、その信頼性と安全性が高く評価されています。一般住宅でも、より高い安全性を求める場合に選択されることが増えています。

耐震等級3

耐震等級3は、耐震等級1の1.5倍の地震力に耐えられるだけの性能を持つ、住宅性能表示制度で定められた耐震性の中でも最も高いレベルです。災害時の救護活動・災害復興の拠点となる消防署・警察署などは、その多くが耐震等級3で建設されています。

耐震等級3の実績

2016年の熊本地震では、3日の間に震度7の地震が2回観測されるという未曾有の被害が発生しましたが、国土交通省の報告によれば、熊本地震において耐震等級3の木造住宅で倒壊や大破は確認されず、わずかに軽微な損傷のみだったとの結果が報告されています。一方、現行の建築基準法に適合している木造建築物も、2.3%(7棟)が倒壊、4%(12棟)が大破しています。

この結果から、耐震等級3の住宅は「大きな損傷が見られず、大部分が無被害であった」と国土交通省の報告書でも確認されており、一度大きな地震を受けてもダメージが少ないため、地震後も住み続けられ、大きな余震が来てもより安全であることが実証されています。

耐震等級3は必要か

耐震等級3を取得すべきかどうかは、多くの人が悩むポイントです。メリットとデメリットを理解した上で判断しましょう。

耐震等級3のメリット

圧倒的な安全性

もし大きな地震が起きても、大切な命や財産を守れる可能性が最も高いことが最大のメリットです。熊本地震の実績が示すように、震度7が2回発生しても無被害または軽微な被害で済む可能性が高いのです。

地震後も住み続けられる

耐震等級1の建物では倒壊は免れても建物に大きなダメージが残り、修繕費用が高額になったり、住めなくなったりする可能性があります。耐震等級3の住宅は、被災後も居住継続が可能なケースが多く、早期の生活再建が期待できます。

地震保険料の割引

耐震等級に応じて地震保険料の割引が受けられます。等級3の場合、最大50%の割引が適用されます。長期的に見れば、この割引額も無視できない金額になります。

地震保険料の割引率
  • 耐震等級1:10%割引
  • 耐震等級2:30%割引
  • 耐震等級3:50%割引
住宅ローンの金利優遇

住宅性能評価書が交付された住宅は、金融機関の金利優遇制度の対象となります。例えば「フラット35」で借入をする場合、より金利の低い「フラット35S」でローンが組めるため、全体の返済額を大幅に抑えることが可能です。

耐震等級3の場合、フラット35Sの金利Aプラン(10年間年0.25%金利引下げ)が利用でき、総返済額で数十万円から百万円以上の差が出ることもあります。

耐震等級3のデメリット

建築コストの増加

耐震等級3の基準を満たすためには、構造計算費用、施工費用、住宅性能の評価申請費用などが必要になります。建物の大きさや間取りによって変わりますが、耐震等級1と比較して数十万円から100万円程度のコスト増加が見込まれます。

  • 構造計算・設計費用:10~20万円
  • 施工費用の増加:30~80万円
  • 住宅性能評価申請費用:10~20万円
間取りの制約

耐震等級3を取得するには、壁が増える、柱や梁が太くなる、窓が小さくなる等の制約が生じ、間取りの自由度に影響が出やすくなります。大きな吹き抜けや広いリビングなど、開放的な設計を希望する場合は、設計上の工夫が必要になります。

工期の延長

構造計算や第三者機関による審査が必要になるため、工期が1~2ヶ月程度延びる可能性があります。

耐震等級3が特に推奨されるケース
  • 地震リスクの高い地域に建てる場合
  • 小さな子供や高齢者がいる家庭
  • 大地震後も同じ家に住み続けたい場合
  • 3階建てなど構造的に不利な建物
  • 長期優良住宅の認定を受けたい場合

一方、耐震等級1でも2000年基準を満たしていれば、命を守るという最低限の安全性は確保されています。予算や設計の自由度とのバランスを考慮し、少なくとも耐震等級2以上を目指すことをお勧めします。

耐震等級の確認方法

新築住宅の場合

耐震等級は「住宅性能評価書」で確認することができます。住宅性能評価書とは、国土交通大臣の認可を受けた第三者評価機関が住宅の性能を評価し、記録した書面です。

住宅性能評価には「設計住宅性能評価」と「建設住宅性能評価」の2種類があります。

  • 設計住宅性能評価:設計段階で評価を受けるもの
  • 建設住宅性能評価:実際の施工を検査して評価を受けるもの

金利優遇や地震保険の割引を受けるには、建設住宅性能評価書の取得が必要になります。

既存住宅の場合

2000年以前に建てられた建物には、耐震等級の評価書が用意されていないこともあります。また、住宅性能表示制度そのものが任意のため、必ずしも評価書を取得する必要がありません。そのため、耐震等級が明らかでないケースも少なくないのが現状です。

こういった場合は、築年数などをもとに耐震性を調査する方法がとられます。

  • 築年数による推測:新耐震基準が定められた1981年6月1日以降に建築されている建物は、新基準を満たしているので、耐震等級1以上の強度があると見なせます。
  • 耐震診断の実施:心配な場合は、専門家による耐震診断を受けましょう。耐震診断によって現状の耐震性能を把握でき、必要な補強工事の内容も明確になります。
  • 建築確認通知書の確認:建築確認通知書があれば、確認申請日から適用された基準を確認できます。

「耐震等級3相当」の注意点

住宅を購入する際に、「耐震等級3相当」という表現を見かけることがあります。これは、あくまで設計上の目安であり、第三者機関による正式な認定を受けていないケースが多いため注意が必要です。

認定機関による審査・承認を受けていないため、本当に耐震性が高まっているか確かめられないというデメリットがあります。また、住宅性能評価書が必要な優遇制度(住宅ローンや地震保険)では、正式な等級取得が条件となる場合があります。

耐震等級を重視する場合は、必ず第三者機関による「住宅性能評価書」の取得を確認しましょう。

耐震改修が必要な住宅の見極め方

耐震診断のセルフチェック

専門家による耐震診断を依頼する前に、まずは自分でできる簡易的なチェックを行ってみましょう。国土交通省住宅局が監修している「誰でもできるわが家の耐震診断」では、10項目の設問に回答することで、自宅の耐震性を簡易的に知ることができます。

このセルフチェックを行うことで、家のどの部分が耐震と関係しているのかがわかり、専門業者による耐震診断を行った際に結果などが理解しやすくなります。費用もかからないため、専門業者へ依頼する前にまず実施することをおすすめします。

建築年代

  • 1981年5月以前に建築確認を受けた建物:旧耐震基準のため要注意
  • 1981年6月~2000年5月:新耐震基準だが2000年基準は未適用
  • 2000年6月以降:現行基準に適合

建築年代は最も重要な判断材料です。旧耐震基準の建物は、現行基準と比較して耐震性が大幅に劣る可能性があります。

建物の形状

  • 1階と2階の外壁線がそろっているか
  • 建物の平面が長方形に近いシンプルな形か
  • 極端なL字型やコの字型ではないか

複雑な形状の建物は、地震時に力が集中しやすく、耐震性が低下します。

大きな窓や広い部屋の有無

  • 1階に壁が少なく、大きな窓が多い
  • ビルトインガレージがある
  • 吹き抜けなど大空間がある

壁が少ない場所は地震時に弱点となります。特に1階部分に壁が少ないと、建物全体が倒壊するリスクが高まります。

壁の配置バランス

  • 東西南北の壁量バランスが取れているか
  • 一方向だけ壁が少なくないか
  • 各階で壁の位置が揃っているか

壁の配置が偏っていると、地震時に建物がねじれる現象(ねじれ破壊)が起こりやすくなります。

増改築の履歴

  • 大規模な増築を行っている
  • 壁を取り払うリフォームをした
  • 確認申請を伴わない違法増築がある

増改築により建物全体のバランスが崩れている可能性があります。特に壁を取り除くリフォームは耐震性を大幅に低下させます。

劣化状況

  • シロアリ被害:土台や柱が食害されていないか
  • 雨漏り:継続的な雨漏りで木材が腐朽していないか
  • 基礎のひび割れ:幅0.5mm以上のひび割れがあるか
  • 不同沈下:建物が傾いていないか

劣化により、建築時の耐震性能が大幅に低下している可能性があります。

地盤の状態

  • 軟弱地盤や埋立地に建っている
  • 近隣で不同沈下が発生している
  • 周辺に川や池、水田があった

地盤が弱いと、いくら建物が丈夫でも十分な耐震性は発揮できません。

専門家による耐震診断

セルフチェックで不安な点が見つかった場合や、1981年以前の建物の場合は、専門家による耐震診断の実施を強く推奨します。

耐震診断の種類

木造住宅の場合、主に以下の診断方法があります。

誰でもできるわが家の耐震診断(セルフチェック)
  • 費用:無料
  • 方法:10項目の問診に回答
  • 所要時間:30分程度
  • 対象:すべての住宅所有者
一般診断法
  • 費用:10~40万円程度(延べ床面積100㎡程度)
  • 方法:専門家が目視かつ非破壊で実施
  • 期間:1~2ヶ月
  • 対象:購入前の中古住宅、解体できない建物

一般診断法は、天井や壁をめくらないため、購入前の中古住宅でよく利用される診断方法です。

精密診断法
  • 費用:15~45万円程度(延べ床面積100㎡程度)
  • 方法:必要に応じて天井や壁をめくる破壊調査を伴う
  • 期間:1.5~2ヶ月
  • 対象:大型リフォームと合わせて耐震改修を検討する場合

精密診断は最も正確な診断が可能で、大規模リフォームと同時に耐震改修を行う場合に適しています。

耐震基準は建物そのものを守るためではなく、命と財産を守るための最低限のルールです。1981年や2000年の法改正を経て内容は大きく進化しており、旧耐震基準の住宅では現行基準と比べて耐震性が不足している可能性があります。まずは建築年代や劣化状況を確認し、「誰でもできるわが家の耐震診断」などを活用してセルフチェックを。不安があれば、専門家による診断と耐震改修を検討することで、家族の命と地域の安全を守る第一歩になります。

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